映画基本情報

タイトル:イタリアのシェフ(原題:The Space Between)
公開年:2016年(日本公開:2017年)
監督・脚本:ルース・ボルゴベッロ
共同脚本:マリオ・ムッチャレッリ
出演:フラヴィオ・パレンティ(マルコ)、メイヴ・ダーモディ(オリヴィア)、リーノ・グアンチャーレ(クラウディオ)
制作国:イタリア/オーストラリア合作(世界初のイタリア=オーストラリア公式合作映画)
撮影地:イタリア・フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州ウーディネ
上映時間:100分
受賞:トロント映画祭エクセレンス賞 / 第90回アカデミー賞外国語映画賞オーストラリア代表作品

あらすじ

かつてニューヨークで売れっ子シェフとして活躍していたマルコ(フラヴィオ・パレンティ)は、35歳になった今、夢を諦めて北イタリアの故郷ウーディネに戻り、病気の父の世話をしながら工場の仕事をこなす毎日を送っていた。メルボルンのレストランからスカウトの声がかかっても、父を理由に断り続ける。

唯一の友人クラウディオが切り盛りする古本屋が彼の心の拠りどころだったが、その親友が突然の事故で命を落とし、マルコはさらに深い喪失の中に沈んでいく。

そんな時、オーストラリアからやってきた自由奔放な女性オリヴィア(メイヴ・ダーモディ)と出会う。イタリアにルーツを持ちながら大都市での生活に疲れ、デザイナーとして新しい人生を踏み出そうとしているオリヴィア。

全く異なる方向を向いた二人が、ウーディネというイタリアの小さな街で、思わぬ交差点に立つ——。

心に残る名言集

名言①「料理をやめたのは、味覚を失ったからじゃない。何かを感じることが怖くなったからだ」

― マルコ(フラヴィオ・パレンティ)

映画の核心をついた言葉。マルコがシェフとしての才能を封印した理由は、技術の衰えではなく、感情の麻痺にある。料理とは素材の声を聞き、味わい、感じる行為——それができなくなった男が、再び感じることを取り戻していく旅がこの映画だ。

名言②「ゴミ箱には捨てるな。勿体ない——それがイタリア人の哲学だよ」

― マルコ(フラヴィオ・パレンティ)

クラウディオの古本屋で語られる言葉。どんなものにも使い道があり、捨てる前にもう一度考える——それはイタリア人の生活哲学であり、同時に「諦めてしまった自分の人生にも、まだ可能性がある」というマルコ自身へのメッセージでもある。

名言③「本当の距離は、キロメートルで測れない」

― オリヴィア(メイヴ・ダーモディ)

オーストラリアとイタリアという地球の裏側を結ぶこの映画のテーマそのもの。物理的な距離ではなく、人と人の間にある「感情の距離」「夢と現実の距離」こそが問題だと語る言葉。映画タイトル「The Space Between(その間にある空間)」の意味を体現している。

名言④「悲しみには、イタリア語と英語で違う時間がかかる」

― マルコ(フラヴィオ・パレンティ)

親友クラウディオを亡くしたマルコが呟く言葉。イタリアとオーストラリアという異なる文化・気質・言語を持つ二人が出会うこの映画で、悲しみの表し方や癒しの速度の違いを詩的に語るセリフだ。

異文化ロマンスの核心にある「わかり合えなさ」と「それでも近づこうとする力」が凝縮されている。

名言⑤「夢は、しばらく忘れることで、戻ってきた時により大きくなっている」

― クラウディオ(リーノ・グアンチャーレ)

マルコの親友で古本屋を営むクラウディオが語る言葉。失われた夢は死んだのではなく眠っているだけだ——という前向きな哲学が、悲劇の後により深い意味を持つ。クラウディオの死後、マルコが再び料理と向き合う決断をする背景に、この言葉の余韻がある。

こんな人におすすめ・必見シーン

イタリアの風景に憧れる方、そして「人生の転換点にいる人間の物語」が好きな方に届けたい映画です。この映画の最大の魅力は、北イタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州ウーディネという、観光地としては地味でも「本当のイタリア」が息づく街の空気感にあります。

ヴェネツィアやフィレンツェではなく、アドリア海に近い小さな工業都市を舞台に選んだことが、この映画に他のイタリア映画とは全く違うリアリティを与えています。

特に必見なのは、マルコが友人のパーティーで料理を担当するシーンです。カジュアルなパーティーに出された凡庸な前菜を見て、突然マルコがエプロンをつけ、厨房に入って腕を振るい始める場面——

長い間封印していた「シェフとしての自分」が、怒りともスピードとも取れる動きで覚醒する場面は圧巻です。

また映画全体を通じて、バスや電車が「間違った方向に行く」「停車を忘れる」といったモチーフが繰り返されます——監督が意図したこの「乗り物の迷走」は、自分の人生の方向を見失った登場人物たちの心理を詩的に象徴しています。

脚本を書いた際、監督のルース・ボルゴベッロはオーストラリアで英語で、共同脚本家のマリオ・ムッチャレッリはイタリアでイタリア語で、それぞれ自国語で書いたものをすり合わせていったという、映画の内容そのものを体現した制作プロセスも興味深い。

登場人物紹介

マルコ(フラヴィオ・パレンティ):35歳の元ニューヨーク在住シェフ。父の介護のためウーディネに戻り、工場で働く。夢と現実の間で身動きが取れなくなった男。

フラヴィオ・パレンティはルカ・グァダニーノ監督の「アイ・アム・ラブ」でティルダ・スウィントンの息子役を演じた実力派で、この映画でも台詞の少ない難しい役を体で表現した。


オリヴィア(メイヴ・ダーモディ):オーストラリア人女性。イタリアにルーツを持ち、デザイナーとして新しい人生を歩もうとウーディネを訪れる。

「Beautiful Kate」などのオーストラリア映画で知られるメイヴ・ダーモディが、強いウィッグと自然体の演技でオリヴィアの自由さを体現した。


クラウディオ(リーノ・グアンチャーレ):マルコの親友で古本屋の店主。明るくてマルコを励ます役だが、映画序盤に命を落とし、その喪失がマルコの物語の核心となる。リーノ・グアンチャーレはイタリアの人気テレビ俳優。

作品データ・制作秘話

2016年制作のイタリア・オーストラリア合作映画(100分)。本作はイタリアとオーストラリアが条約締結から20年にして実現した**世界初の公式合作映画**。ローマ国際映画祭でワールドプレミアを飾り、2017年にイタリア31都市・オーストラリア5都市で劇場公開。

トロント映画祭でエクセレンス賞を受賞。第90回アカデミー賞外国語映画賞のオーストラリア代表作品として選出された(ノミネートには至らず)。

監督ルース・ボルゴベッロはヴィクトリア芸術大学映画学科卒のオーストラリア人女性で、本作はそのままが半自伝的作品——夫のダヴィデ・ジュスト(本作プロデューサー)とウーディネで出会った日、彼の親友が亡くなるという悲劇が重なっていた。

「その日の出来事が、私たちの関係の出発点であり、人生の見方を変えた」と監督は語っている。イタリアとオーストラリアでは映画制作の文化が大きく異なり、イタリア側が柔軟でクリエイティブな裁量を監督に与える一方、オーストラリア側はより官僚的・規則的だったとボルゴベッロは語っており、その「文化の違い」が映画のテーマそのものとシンクロしている。

総評・おすすめ度

★★★(3/5)

地味な映画だ。北イタリアの工業都市を舞台に、静かに傷ついた男と自由な女が出会い、すれ違い、少しだけ近づく——それだけの映画だ。

しかし、そのシンプルな物語の中に、「夢と現実の間にある距離」「異なる文化が出会う時の摩擦と引力」「喪失の後に再び動き出すこと」という普遍的なテーマが静かに息づいている。

フラヴィオ・パレンティの台詞の少ない演技が映画の詩的な質感を作り、ウーディネの街並みと地中海への旅情を掻き立てる映像が美しい。

アカデミー賞外国語映画賞オーストラリア代表に選ばれたことが示す通り、これは小さいが誠実な映画だ。イタリアに行きたくなる、静かな夜に観たい一本。

※ 名言の検証について:コトバミンに掲載している名言は、IMDb・Wikiquote・Rankerなど複数の海外データベースで原文を検証済みです。コトバミンでも以前から取り上げてきた名言については、今回改めて原文を照合・確認しています。

検証プロセスの詳細はこちらをご覧ください。