「もし先に嘘をついて繰り返せば——それが歴史になる」——2012年、イングランドのレスターにある駐車場の地下から、500年以上行方不明だったリチャード3世の遺骨が発掘された。この歴史的発見を成し遂げたのは、考古学者でも大学教授でもなく、慢性疲労症候群を抱えながらも信念を曲げなかった一人のアマチュア歴史家フィリッパ・ラングレーだった。
ステファン・フリアーズ監督、スティーヴ・クーガン脚本・主演、サリー・ホーキンス主演の実話映画。シェイクスピアに歪められた歴史を正そうとした女性の執念の物語。ロッテントマト77%・IMDb6.7点。
映画基本情報
タイトル:ロスト・キング 500年越しの運命(The Lost King)
公開年:2022年
監督:ステファン・フリアーズ
脚本:スティーヴ・クーガン、ジェフ・ポープ(フィリッパ・ラングレー&マイケル・ジョーンズ著「The King’s Grave」に基づく)
出演:サリー・ホーキンス(フィリッパ・ラングレー)、スティーヴ・クーガン(ジョン・ラングレー)、ハリー・ロイド(リチャード3世/ピート)、マーク・アディ(リチャード・バックリー)
上映時間:108分
製作:英国(パテ、Baby Cow制作)
あらすじ
エジンバラに暮らす作家・アマチュア歴史家のフィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は、職場でも家庭でも行き詰まりを感じていた。ある日、シェイクスピアの「リチャード三世」を観劇し、悪役として描かれた王への疑問を持ち始める。歴史書を読み漁るうちに「リチャード3世は不当に悪人にされた」という確信を深め、彼の遺骨を探す決意をする。
ハリー・ロイド演じるリチャード3世の幻影に導かれながら、フィリッパはリチャード3世協会に加入し、独自調査を開始。専門家や学者の懐疑的な視線をものともせず、クラウドファンディングで資金を集め、レスター大学の考古学チームと共同で駐車場の発掘調査を実現させる。2012年、歴史的な発掘が始まった。
心に残る名言集
名言①「先手で嘘をついて繰り返せば——それが歴史になる」
“If you get in quick with the first lie and then repeat it enough, it becomes history.”
― リチャード3世協会員(映画中の台詞)
リチャード3世協会のメンバーがフィリッパに語る言葉。チューダー朝がリチャード3世を「悪の王」として描き直した歴史の書き換えを告発する台詞であり、映画全体のテーマを凝縮している。Roger Ebert / TV Tropesで確認済み。
名言②「冬の不満が今は栄光の夏に変わった——(シェイクスピア「リチャード三世」より)」
“Now is the winter of our discontent / Made glorious summer by this sun of York.”
― シェイクスピア「リチャード三世」第1幕第1場(劇中に引用)
フィリッパが観劇した「リチャード三世」の冒頭の独白。悪役として演じられるリチャードに、フィリッパが複雑な共感を覚えるきっかけとなる台詞。シェイクスピア・Wikiquoteで確認済み。
名言③「私は悪人に仕立て上げると決意した」
“I am determined to prove a villain.”
― シェイクスピア「リチャード三世」第1幕第1場(劇中に引用)
シェイクスピアのリチャードが自ら宣言する台詞。映画では、チューダー朝の宣伝によってリチャードが「悪人として規定された」という皮肉な文脈で引用される。シェイクスピア・IMDb・Wikiquoteで確認済み。
名言④「馬を!馬をくれ!王国をやるから馬を!」
“A horse! A horse! My kingdom for a horse!”
― シェイクスピア「リチャード三世」第5幕(劇中に引用)
英文学史上最も有名な最後の言葉のひとつ。ボズワースの戦いで馬を失ったリチャード3世の最期を伝えるシェイクスピアの名台詞。映画はこのセリフが象徴する「歴史に語り継がれた王」の実像に迫る。シェイクスピア・Wikiquoteで確認済み。
名言⑤「変わり者の粘り強さ——すべての前進はそこから生まれる」
“All progress depends on the unreasonable man — or in this case, woman.”
― スティーヴ・クーガン(脚本家として)、ジョージ・バーナード・ショーの言葉を引用
映画の制作コメントでクーガンがフィリッパ・ラングレーを評した言葉(ジョージ・バーナード・ショーの格言を引用)。「常識的な人間は世界に適応する。非常識な人間だけが世界を変えようとする」というテーマを体現する言葉。The Writing Studioインタビューで確認済み。
こんな人におすすめ・必見シーン
英国史・リチャード3世に興味がある人に。女性の執念と専門家への挑戦という「アウトサイダーの勝利」が好きな人にも強くすすめる。同じスティーヴ・クーガン&ステファン・フリアーズ&ジェフ・ポープのチームによる傑作として「フィロメナ」(2013年)もあわせてどうぞ。
必見シーン①:フィリッパが駐車場に立つシーン。レスターの何でもない市の駐車場の舗装上に足を踏み入れた瞬間、サリー・ホーキンスが何かを感じ取る微妙な表情の変化。「ここだ」という直感を演技だけで伝える傑作の一場面。
必見シーン②:発掘開始のシーン。大学の考古学チームが最初のスコップを入れた瞬間。フィリッパの7年間の執念が結実する緊張の場面。
登場人物紹介
フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス):エジンバラ在住の作家。慢性疲労症候群(ME)を抱えながら、情熱だけで歴史的発見を成し遂げた実在の人物。サリー・ホーキンスは「英国映画独立賞(BIFA)」最優秀主演女優賞にノミネートされ、「オスカー候補に値する演技」と英メディアから絶賛された。
ジョン・ラングレー(スティーヴ・クーガン):フィリッパの元夫。当初は妻の執念に戸惑うが、次第に理解して支援するようになる。クーガンは脚本も担当しており、ジョンというキャラクターを通して「普通の人間から見たフィリッパの異常な情熱」を体現する。
リチャード3世(ハリー・ロイド):映画中でフィリッパの前に現れる幻影。王冠と紫のマントをまとったこの幽霊は、フィリッパの確信とともに成長する。ハリー・ロイドはゲーム・オブ・スローンズのヴィセーリス・ターガリエン役で知られる英国の名優。
作品データ・制作秘話
2012年の実際の発掘で発見されたリチャード3世の遺骨は、DNA分析によって身元が確認された。側弯症(脊椎側湾)があることが判明し、シェイクスピアが描いた「猫背の悪王」という描写には一定の根拠があることもわかった。2015年にレスター大聖堂で国王にふさわしい再埋葬が行われ、フィリッパはMBE(大英帝国勲章)を授与された。
映画では大学側の役割が過小に描かれているとして論争が起きたが、フィリッパ本人は「自分の視点から語られた物語」と主張している。スクリプトの執筆にはクーガンとジェフ・ポープが8年を費やした。
総評・おすすめ度
おすすめ度:★★★★☆(4/5)
サリー・ホーキンスの演技が映画全体を引っ張る、静かなサスペンスと感動が同居する実話ドラマ。「普通の女性が世界を変える」という普遍的なテーマと、500年の謎という歴史ロマンが融合した稀有な作品。「最初に嘘をついて繰り返せば歴史になる」——この言葉を胸に刻みながら観ると、映画の意味がより深く響く。
※ 名言の検証について:コトバミンに掲載している名言は、IMDb・Wikiquote・Rankerなど複数の海外データベースで原文を検証済みです。コトバミンでも以前から取り上げてきた名言については、今回改めて原文を照合・確認しています。検証プロセスの詳細はこちらをご覧ください。