映画基本情報

タイトル:オーケストラ!

(Le Concert)
公開年:2009年(日本公開:2010年)
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アレクセイ・グシュコブ、メラニー・ロラン、ドミトリー・ナザロフ
受賞:セザール賞 音楽賞・音響賞受賞、ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート
上映時間:124分

あらすじ

かつてボリショイ交響楽団の天才指揮者だったアンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)は、ブレジネフ政権時代にユダヤ人演奏家の排斥に反対したため解雇され、30年間清掃員として働いていた。ある日パリのシャトレ座からの出演依頼FAXを盗み見た彼は、散り散りになった元楽団員を集め、ボリショイ交響楽団に成りすましてパリへ乗り込む奇策を企てる。

演目はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲——そして若きバイオリニスト、アンヌ=マリー(メラニー・ロラン)との間には、30年前に秘められた過去があった。

登場人物紹介

アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グスコフ):かつてボリショイ劇場の伝説的な指揮者。ユダヤ人音楽家を守るためにブレジネフ政権に解雇され、今は同じ劇場の清掃員として働く。内に秘めた情熱と夢を30年間持ち続けた男をグスコフが静かに演じる。


アンヌ=マリー・ジャッケ(メラニー・ロラン):世界的なバイオリニスト。

なぜかチャイコフスキーのバイオリン協奏曲だけは演奏を避けてきた。「イングロリアス・バスターズ」でのショシャナ役でも知られるロランが本作で全く異なる繊細な魅力を見せる。


イワン・ガブリロフ(ヴァレリー・バリノフ):元KGBエージェントで、フィリポフに引き込まれる形でオーケストラのマネージャー役を担う。

共産主義時代の敵と協力するという皮肉な関係が笑いと深みを生む。
サーシャ・グロスマン(ドミトリ・ナザロフ):チェロ奏者でフィリポフの旧友。ガブリロフへの疑惑を抱きながらも行動を共にする。

心に残る名言集

名言①「言葉は裏切る。汚い。美しいのは音楽だけだ」

“Words betray. They’re dirty. Only music is beautiful.”
― アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)

共産主義政権の「平等」「人民のため」という言葉が、実際には弾圧と排除に使われた時代を生き抜いたアンドレイの言葉。政治や権力の言葉が人を傷つける時代に、音楽だけが嘘をつかないという信念が込められている。

名言②「オーケストラは演奏中、一種の共産主義だ——強制ではなく、自発的な協調によって成立する」

“An orchestra is like communism — but the real kind, where everyone plays together of their own free will.”
― アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)

皮肉と深みが同居する言葉。共産主義という言葉を逆説的に使い、オーケストラが体現する「本物の調和」を称える。強制でなく、個々が自ら音を合わせるからこそ美しい——それが音楽の、そして理想の社会の本質だという哲学だ。

名言③「行かなかったら……離婚するわよ」

“If you don’t go… I’ll divorce you.”
― イリーナ(アンドレイの妻)

無謀な計画を聞かされた妻が最初「離婚するわよ」と言いながら、続けて「行かなかったら」と付け加える場面。てっきり反対だと思いきや、夫の夢に向かって背中を押す妻の愛情が炸裂する。映画ファンが最も愛する名場面のひとつだ。

名言④「神様がいるなら、今すぐ証明してくれ」

“If God exists, prove it now.”
― イヴァン・ガヴリロフ(ヴァレリー・バリノフ)

元KGBの党員が、ボロボロで始まったコンサートを見ながら思わず神に祈る場面。「神などいない」と信じてきた無神論者が、音楽の奇跡の前に膝をつく——この一瞬が映画最大のユーモアであり、同時に感動の転換点でもある。

名言⑤「音楽は人の心にとらわれて外に出ようとしない——でも出口はある」

“Music is trapped inside the human heart and doesn’t want to come out — but there is a way out.”
― アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)

30年間指揮台を奪われながらも、音楽への情熱を心の中に持ち続けてきたアンドレイ。才能は環境に封じ込めることができても、完全に消すことはできない——この映画全体のテーマを象徴する言葉だ。

名言⑥「30年間、俺たちはずっと練習し続けていた——この瞬間のために」

“For thirty years, we have been rehearsing — for this moment.”
― アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)

ボロボロのリハーサルなしで本番を迎える直前、仲間に語りかける言葉。30年間それぞれの場所で生きてきた楽団員たちが「心の中でずっと演奏し続けていた」という意味。この言葉が、ラスト12分の奇跡の演奏の布石となる。

こんな人におすすめ・必見シーン

クラシック音楽が好きな方はもちろん、笑いながらいつの間にか泣いてしまう映画を探している方にこそ届けたい作品です。この映画の魔法は「喜劇と悲劇が分離されていない」点にあります。

旧ソ連時代の政治的迫害という重いテーマが、酔っ払ったミュージシャンたちのドタバタ喜劇と同居しており、最後のクライマックスで一気に解放されます。

特に必見なのはラストのコンサートシーン——約14分間にわたるチャイコフスキーのバイオリン協奏曲の演奏と、フィリポフとアンヌ=マリーの「秘密」が同時に明かされる場面は、映画史上最も感動的なフィナーレのひとつです。この14分のために映画全体が存在する、と言っても過言ではありません。

また、パリに到着したロシアの音楽家たちが全員バラバラに行動してしまうシーン(タクシー運転手になったり、人足になったり)は抱腹絶倒のコメディとして描かれていますが、その根底には「共産主義崩壊後の生き方を見失った人々」という哀しみが流れています。

メラニー・ロランはこの役のためにヴァイオリンを5ヶ月間猛練習しており、映画内の演奏シーンでは実際に指の動きを再現しています(実際の演奏はオルケストル・ナシオナル・ドゥ・フランスのサラ・ネムタヌが担当)。

作品データ・制作秘話

2009年公開のフランス・イタリア・ルーマニア・ベルギー合作映画。監督はルーマニア出身でフランスに亡命したラドゥ・ミハイレアヌ(「いのちの詩〜ヴィタ・アクティヴァ〜」で知られる)。

監督自身の父親はユダヤ系でナチスとスターリン体制を生き延びるために名前を変えており、「なりすまし(ポジティブな詐称)による歴史の書き換え」というテーマは監督自身の体験に基づく。

セザール賞(フランスのアカデミー賞に相当)の最優秀オリジナル音楽賞・最優秀音響賞を受賞。

ゴールデングローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた。監督の父イオン・ミハイレアヌはエンドクレジットで「熱心で注意深い観客・映画の支持者」として謝辞を受けている。

総評・おすすめ度

おすすめ度:★★★★★(5/5)

前半のドタバタコメディに騙されないでほしい。ラスト12分のチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」の演奏シーンで、涙が止まらなくなる——そんな映画だ。

フランス本国ではマイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」を抑えてオープニング興行収入1位を獲得し、上映後にチャイコフスキーのCDが異例のヒットを記録した。

クラシック音楽に馴染みがなくても、音楽と人間の力を信じるすべての人に贈りたい傑作だ。

※ コトバミンに掲載している名言は、海外の複数データベースで原文を検証済みです。